物流を制するものが商売を制す? アマゾンと物流戦争 「NHK出版新書」 角井亮一

 

 

概要

強力な物流インフラで物流産業を支配するアマゾンのロジステック戦略、さらには、楽天ヨドバシカメラヤマト運輸アスクル、ウォルマートなどの事例も挙げ、世界の物流産業を取り巻く現状についてまとめた著作。

圧倒的な品揃えと物流網を手に市場を圧巻しているアマゾン。日本企業にとって無視できない存在となっている彼らへの対抗策、さらにはその先進的な企業戦略から日本企業も学ぶべきことがまとめられている。

物流を占めるものが商売を制するともいわれる世においてこの本から学べることは少なくない。

 

 

要約、その他雑記

アマゾンの強さは何といっても圧倒的なロジスティクにITを組み合わせた企業戦略から生まれる。#ロジステックとは簡単に言うと物流運搬システムのようなもの

アマゾンは売り上げが右肩上がりなのにも関わらず利益率はそこまで高くない。というのも、利益分をロジステックの投資(具体的にはITを駆使した在庫管理や、ピッキングの効率化、物流網の充実など)に回すことで低コストを実現、それにより低価格も可能になりより多くの顧客が引き込まれ売り上げ増加、上がった利益で再び投資という好循環を作りだしているからだ。

 

 

一方で、それに対抗する企業が国内では楽天である。

ただし楽天独自の営業体系(アマゾンとは異なり多数の店舗が楽天に出店している)が弱点ともなっている。

①物流品質のばらつき

出店している店により物流品質が変わってしまう。また、異なる店舗で同時に複数購入するとそれぞれ別の配送で到着する。

②規模のメリットが生まれない

この営業体系ゆえそれぞれの店舗が個別に仕入れるため、仕入れ時にアマゾンと比べ規模のメリット(仕入れ値の値下げ)が生まれない。

 

アマゾンの台頭に加え、以上のような理由から楽天は国内市場で苦戦を強いられている。

 

 

一方で、アクスルやヨドバシカメラなどは独自の戦略、自前の配送網を用いネット通販業界で生き残っている。

 

まず、アクスルは当初、商材をオフィス用具に絞っていたが(業績が安定するまではやみくもにターゲットを広げるのではなく絞ることで事業戦略を進めていくマーケティング戦略だったかも)、その際、配達相手がオフィスということもあり再配達などの手間を防ぐことができた。

#実はヤマト運輸など多くの運送業者はこの再配達にとても苦しめられている。携帯アプリで配達時間を予告、さらには、配達時間変更を簡単に行えるようにするなどして事前に再配達を防ぐ試み、また、コンビニ受け取りや、宅配ポストの設置、最近では自動配達運転者開発の試みがなされている。

 

 

続いて、ヨドバシカメラでは顧客が店舗で商品をチェックし後日ネットで購入、それらを自前の物流網で配達するといったことが流れになりつつある。

#自前の配送網をもつことで顧客の配送希望により柔軟に対応できる(顧客重視主義の流れはやはり加速している)

そのためにも、豊富な商品知識を持った店員を店舗に多く揃え、ネットと店舗どちらで買ってもよいように通販と店舗価格を合わせる試みがなされている。

 


アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書) [ 角井亮一 ]

いわば店舗はあくまで顧客とのコミュニケーションの場でありネットが購入の場となっている。

ちなみにアメリカの眼鏡通販会社ワービーパーカーやアパレル店のボノボスも似たような営業体系を採用し成功しており、店舗はあくまで顧客との交流の場である。

 

筆者は先ほど苦戦を強いられていると述べた楽天もこのような取り組みによって改善の余地があるとする。

例えば、通販売り上げ上位店を集め物産展を開催し、そこを顧客との交流の場とすることで顧客満足度を上げる試みである。

近頃、マーケティングの分野でも、顧客とのコミュニケーションを重視しただ品質を上げることに固執するのではなく顧客の必要とするものを聞き入れた商品開発をするべきだという声が上がっている。こうした店舗×ネットの取り組みもこうした流れを踏まえての結果といえるかもしれない。

 

 

近頃、ヤマト、アマゾンなど物流に関わる企業がニュースを騒がしているが、物流業界の基礎を学ぶという意味では是非おすすめ。