イスラーム入門として圧倒的におすすめ。 イスラーム文化ーその根底にあるもの 「岩波文庫」 井筒俊彦
概要
近年、イスラム国や中東問題などイスラム教関連のニュースをメディアで耳にしない日はない。彼らイスラム教を信じる人々の根底にある文化、価値観とは一体何だろうか。イスラーム研究の権威による代表的入門書。これだけ高度な内容をこれだけ読みやすい文章にできる筆者に脱帽である。
要約、その他雑記
国際貿易都市メッカで生まれ、商人であったムハンマド。
後に預言者となる彼のこのような生い立ちがムスリムの人々にとって全ての行動規範である「コーラン」にも大きな影響を与えると筆者は言う。
具体的には取引の重要性を意識し、相互の信義や絶対に嘘をつかないといったこと、さらには、商売のように絶えず変化する状況に適応するということを重視することであり、「コーラン」にもこのような記述が多くみられる。
ところで、イスラームを一つとしてまとめる「コーラン」は神の言葉であるが解釈は人がするものである。当然のことだが解釈にはある程度自由が発生する。それは何も聖典だけでなく、あらゆる書物で起こることだろう。
実はこの解釈の自由性こそがイスラムの多様性を生む原因ともなり、同時に危険性でもあると筆者は語る。結局のところ、スンナ派、シーア派などという宗派の争いは「コーラン」をどのように解釈するかが生み出すものであり、具体的にそれは「外面への道」か「内面への道」であると言う。
#これだけみてもいまいち分からないと思うので詳しくはぜひ本を読んでみてください。
さらに、キリスト教や仏教などと比べても特にイスラム教における解釈の自由性は大きな意味を持つ。というのも、ムスリムにとって生活の全てが宗教であり(例えば六信五行など生活のいたるところにイスラームの教えが浸透している)、だからこそ解釈における違いが日々の生活に非常に大きな影響を及ぼすからである。
#ちなみに、解釈を行うには論理的思考力が不可欠であり、イスラム圏で論理学が発展したのもこのような背景がある。
ここでの紹介はここまでに控えるが、他にもイスラム教とキリストの対立をイスラームのその絶対的一神教としての性格から捉える記述や、スンナ派とシーア派の宗派の違いがそれを信じる人々の精神性、文化に与える影響など非常に興味深い内容ばかりです。
非常に密度の濃い本ですが比較的読みやすくイスラームを知る入門書としては圧倒的におすすめです。