集団的自衛権肯定派を知る導入書としておすすめ。 安保論争 「ちくま新書」 細谷雄一

概要

日常世界において、強力な武器を持たなければ害のない人物だと思われ攻撃されることはない、もしくは、強力な武器を持っていれば攻撃するメリットがない人物だとみなされ平和を保てる。あなたはどちらを信じるだろうか。本書では後者の考えを安全保障政策に当てはめて論じたものであり、中国が急激に国力を増大させている今こそアメリカとの結びつきを再び強め、攻撃するのにメリットのない国とすべきだと主張している。

集団的自衛権の行使の是非が注目を集めている現在において、メディアでは反対意見があふれている。議論への理解を深めるためにも賛成側の意見も頭に入れておく必要があるだろう。

 

要約、その他雑記

歴史的に世界のパワーバランスが崩れた時に戦争が起こりやすい。それは、オスマン帝国という強大なパワーの衰退とドイツの急激な成長が重なって生じた第一次世界大戦オーストリア・ハンガリー帝国解体で生じた「力の真空」にナチスドイツの侵略、拡大の結果として起こった第二次世界大戦大日本帝国崩壊というパワーの衰退によって生じた第二次世界大戦後の数々のアジア地域の戦争を見れば明らかである。

現在、中国が圧倒的な経済力、軍事力を武器にアジア環太平洋地域でのパワーを増大させている。そこに日本の国力の低下、アメリカの防衛費削減が重なりアジア地域は大変不安定なものとなっている。このような時こそ、集団的自衛権を認めアメリカとの結びつきを強めることで日本を攻撃しても不利益な国とし(強力なアメリカの軍事力に守られるため)、さらにはアジアでのパワーバランスを安定させる必要がある。

 

また、この本ではベルギー、ウクライナを例にこの問題への議論を深めている。

ベルギーは伝統的に国際法上中立の立場をもつことで平和をつくりだせると考えていた。しかし第一次大戦、二次大戦とドイツはベルギーのこのような立場を考慮することなく侵攻した。戦争時のドイツにとって国際法上の立場などは重要ではなく軍事的戦略の観点から行動していたにすぎないのだ。

この二度にわたるドイツの侵略からベルギーは十分な軍事力がないと国を守れないと学んだ。ただし、ベルギーという小国が持つ軍事力では十分ではないことから、第二次大戦後の1948年にベルギーが中心となりブリュッセル条約で西欧同盟を、1949年には大西洋同盟を結び、これ以後ベルギーは一度の侵略も受けていない。

 

一方、ウクライナは強力な同盟関係に加入せずに苦しんでいる例である。ウクライナは西欧を中心とする軍事同盟NATOに加入することなく、ロシアの干渉に苦しめられている。もしウクライナが強力な軍事同盟に加入していたら、クリミア併合などといった国際法違反といえる行為をロシアが行ったであろうか。

 

グローバル化が進み国際構造が非常に複雑になっている現在、世界各国と密接に連携し軍事的危機を乗り越えていくことが不可欠であり、それは日本の集団的自衛権の行使によって深められる。米、独、東南アジアなど各国の首脳が日本の集団的行使を歓迎しているのもアジア、さらには世界の安定、平和を目指してのことだろう。

 

以上のように、歴史上での実例を交えつつ集団的自衛権について論じた本。その他、日本において集団的自衛権を認めないという解釈に至った経緯なども紹介されており、この問題の基本書としては最適であるのでぜひ一読を。